映像制作/USTREAM・IP配信会社のジーマ代表が、徒然なるままに書き綴る とりとめもない出来事、映像、映画業界のお話 http://ji-ma.tv/ http://ji-ma.jp/


by imao001

カテゴリ:レビュー( 33 )

映評:おくりびと

遅ればせながら滝田洋二郎監督、本木雅弘主演の「おくりびと」を見た。評判は聞いており、様々な賞を受賞したのも知っており、日本アカデミー賞を総なめにしたのも知ってはいたけれど、今ひとつ乗り気ではなかった。おそらくは滝田監督作品に対するイメージがあまり良くなかったからだろうと思う。しかし米国アカデミー賞の外国語映画賞を受賞したと聞けば、ようやくその重い腰も上げざるを得ないだろう、何とか時間を作り劇場へと向かった。

アカデミー効果での混雑があるだろうと思い、全席ネット予約ができる新宿ピカデリー(ここは前回足を運んで心地よかった!)を検索してみると土曜は全回売り切れ(午前11時過ぎにも関わらず)、そこで時間も限られていたのでここならば大丈夫だろうと池袋のシネ・リーブル池袋へと向かった。この劇場、駅から濡れずに行くことが可能な、比較的便利な劇場にもかかわらず、そのPRの下手さから以外に空いている劇場なのだ。電話をかけてみると案の定半分ほど空席があるとのことなので、移動の時間を考えても座れるだろうと考え劇場へ向かった。到着後すぐにチケットを購入し、いざアカデミー賞受賞作「おくりびと」鑑賞!

さて感想はというと確かに完成度が高く、アカデミー賞外国語映画賞もうなづける映画だった。いつもはあらすじ等をざっくりと紹介したりするのだが、今回は“全ての人にお勧めできる”という理由であえてあらすじなど説明しません。とりあえず見てみてください。この映画は脚本が異様に狙いすぎているきらいがあるのですが、映画表現、ストーリー運びにその厭味さがあまり出てこない。脚本家の方や、脚本を勉強しているような人だと、いろんな部分でやや戦略的過ぎると思えゲンナリしてしまうのだろうけれど、純粋に物語を追っていれば深い感動と爽快感を味わえる。死と二人三脚しているような職業の映画であるにもかかわらず軽やかなユーモア感を持ち、また一方で死を題材にしているからこその重い、鑑賞後の印象がこの映画を良質たらしめている。

現在25週目に突入ということですが、まだの方は是非見てみてください。

映画「おくりびと」

Excite エキサイト : 『色んな「おくりびと」効果があるようです』

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by imao001 | 2009-03-02 02:30 | レビュー
私は学生時代から自分のあるものに対する“嗅覚”には絶対的な自信を持っています。これはほんとに“嗅覚”としか言いようがないんですが、あるものの良し悪しをその臭い、雰囲気で判別出来るんです。そのあるものとは… 映画の予告編。劇場やネットなどで(TV CMは短いので却下)映画の予告編を見ると大体その映画が面白い映画か面白くない映画か、また映画の出来なども分かるんです。学生当時からよく周りには公言していたんですがあまりこのことを信じてくれる人はいませんでした(笑)。ま、これをごらんの方々も同じお気持ちでしょう。そりゃそうですよね、予告編を見て『当たる臭いがする』とか、『この臭いはどうも当たりそうもない…』などといってるわけですから… ま、映画の好みもまあ、人それぞれですので信じる信じないは皆さんにお任せします。

それはさておき、なぜこのような話をしたかというと、実は間もなく公開の話題作(なんだろうなぁ、あのキャスティングなんだもの…)にこの強烈な良質な映画のにおいを感じ取ってしまったからです。
その映画というのが…

『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』

これ予告編を見てすぐ「あ、これは相当いい映画だ!」と直感的に感じました。主演にあの「タイタニック」のコンビ、レオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットの二人。二人とも良い俳優だとは思うのですがインパクト不足で個人的にはこれまでやや評価されずにいました。おまけに私はなんと『タイタニック』を見たことがないという貴重な映画ファンなので、特別このお二人に興味も印象もなかったんです。が!ですが!おそらく本編をまだ見てはいませんが『レボリューショナリー・ロード』はかなりいい映画であろうと断言できます!相変わらず演技派を気取ったような(ファンの皆さんスミマセン!)ディカプリオの癖が残ってはいるのですが、昔の少年の頃のような自然な演じ方に戻ってきている点、またおそらく『タイタニック』から相当オファーがあったものの組むことがなかったこのコンビが、いまようやく再び共演できるようになったその理由が二人の演技のアンサンブルに見て取れます。監督はサム・メンデスでなかなか期待できるでしょうし、サム・メンデスはケイト・ウィンスレットのだんなだそうで、決してヘボイ演技は編集できないでしょうし。いや、公開前からこんなに期待した映画は久しくなかったのでもちろん鑑賞後にまたレビューします、乞うご期待!

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Excite エキサイト : 芸能ニュース

レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで







ちなみに先日、ANA全面協力の『ハッピーフライト』を見てきましたが、まぁ、これがひどいことひどいこと。もう公開終盤だから言っていいでしょうけど、ちょっと亀山さん、矢口監督、いったいどうしたんですか?と言いたい。そもそも物語りになってないし、こんな構成からそもそもなってない映画久々に見ましたよ…ANAの社会科見学(実際劇中にも社会化見学出てきましたねぇ)を見せられたような感じです。群像劇にしたかったのだろうけれども何一つハートに残ると言うか、落ちると言うか感慨ある話もなく、単なるカタログ。飛行業界の裏側が見たい人だけ見に行ってください。
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by imao001 | 2009-01-13 22:51 | レビュー

映評:PARIS

今回は三連続になってしまいましたが映画の感想。映画は「PARIS」
関東では渋谷のBunkamura ル・シネマで現在上映中です。

ストーリーは心臓病を患う元ダンサー、ピエールと、その姉でソーシャルワーカーとして働きながら3人の子供を育てているエリーズ、年甲斐もなく学生に恋をする大学講師、その弟の建築家、ピエールの向かいに住む美人の女学生、市場で働く元夫婦のジャンとカロリーヌ、そして彼らを取り巻く市場の人たち等々、様々な職業、地位、状況の人のパリでの生活を描いている。とりとめのない日々の生活がテンポよい群像劇として映し出されていて見ていて心地よい一本です。

“とりとめもない生活”と書いてしまいましたが、人から見ればつまらない生活に見えても当人にとっては一瞬一瞬を生きている大切な時間… そんな当たり前のことなのだけれど自分も含めおそらく多くの方々がついつい惰性で、無為に生きていることが多いんじゃないかなぁと思います。それだけにこの映画には考えさせられることも多く、個人的な経験も投影されて深く感動しました。特に心臓病を患う元ダンサーが映画の中での役割としては中心的なのですが、彼は“生きる”ということに対し日々を静かに過ごすことを選択します。確かに病気の治療方法が心臓移植の提供者を待つしかないとはいえ、人間ついついあがいてしまうだろうから、彼のような状況でありながら、いま生きていることに感謝するというか、味わいながら今という時間を生きていることに言いようのない感情を持ってしまう。応援だったり、共感だったり、時に反発だったり…

監督のセドリック・クラピッシュ監督については実はかつては大して興味がない監督だったのですが「猫が行方不明」あたりから親友が激賞するのでよく見に行っていたなぁ。ただフランソワ・オゾン監督同様なぜか好きになるきっかけの作品がないまま見ていた感じがあります。決して映画の技巧的にも作家性でもさりとて気になるところはないのに特別好きになることはなかったのですが、おそらくこの作品で、これ以降彼の映画が公開されれば必ず見るであろう大好きな監督の一人になりました。

また、この映画の中で特筆すべきはソーシャルワーカーのエリーズを演じるジュリエット・ビノシュ。3人の子持ち、という設定の時点で私の世代の人はおそらく年月の過ぎ行く速さを感じるのではないでしょうか。だって「ポンヌフ」とか「トリコロール」ではすばらしい輝きを放っていた女優さんです。そんな美女がこの映画では“子持ち”で“シングルマザー”そして“ソーシャルワーカー”という完全なる“おばさん設定”だから妙に「時代はすぎていくんだな…」とさびしく考えさせられますよ、ホントに。映画ではもう若くないと塞ぎがちの姉にピエールがかける言葉「生きているんだ。人生を謳歌しなければ…」。変わっていくビノシュの表情同様に自分のなかでも人生を精一杯生きようという決意みたいなものがあふれてくるのを感じました。これぞ映画の楽しみです。

ちなみにこれポスターとかチラシとかアートディレクションが個人的にとても好きです。
最近いけてるコンセプトをした映画のアートディレクションがなかったのでこれにも非常に満足です。

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映画「PARIS」オフィシャルページ

PARIS (パリ)
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by imao001 | 2008-12-28 14:55 | レビュー
私の大好きな中国映画に「心の香り」(監督:孫周 スン・チョウ)という映画があります。ある少年が両親の不和が理由で元京劇俳優のおじいちゃんのところに預けられ、最初は上手く行かない二人の関係も様々な出来事によって良好に進み、最終的には少年の京劇俳優としての才能が発見されるというストーリー。大学時代、京劇にはまっていた私は担当教授の誘いでよく京劇や越劇など見に行ってましたが、その華やかな舞台に「もし自分に巧みな身体能力があったら京劇の俳優を目指しただろう」などと勝手に空想していました。ところが、先ごろそんな私の思いと同じような状況を描いた映画があることを知りました。それが「北京の恋」です。

物語は京劇を学ぶために中国にやってきた日本の女性と京劇俳優の恋、また日中戦争に翻弄された三代に渡る家族の悲劇等々、ストーリーと背景に京劇の名作を上手く絡めた映画です。公開は既に終了してしまいDVDででも早く見ようと思っているのですが、なかなかレンタル屋に足を運ぶことすらままならない最近、正月休みにでも時間を作って見てみましょう。ここで主演している女優さんが「OLにっぽん」や「NHK中国語会話」でもお馴染みの前田知恵さん。彼女は北京電影学院の演劇科を外国人で初めて卒業している人だそうで、中国語も演技も太鼓判が押されているも同然、映画も楽しみです。「OLにっぽん」でも最後の最後で巧みな中国語を発揮してましたし将来が楽しみの女優さんです。彼女はこういったテレビや映画などで日本と中国の架け橋になれるような女優になりたいと何かのインタビューでおっしゃってましたが、私も同感です。私はいまだに自分で本編映画の監督をするという夢をあきらめてませんが、実現できたその時には是非、日・中・台(出来れば韓も含めて)で映画を撮りたいと考えています。やや道のりは長そうですが希望を捨てることなく彼女のような着実に成果をあげている人を目指して頑張りたいと思います。

ちなみに「心の香り」にはNHKの大地の子にも出演していた中国の名優 朱旭 (チュウ・シュイ)がおじいちゃん役で出ています。中国映画ファンなら彼の演技を見るだけでも非常に価値ある一本です。

こちらは「心の香り」です。子役も立派な芝居してます。
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こちらは「北京の恋」です。
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前田知恵さんインタビュー(動画つき)

前田知恵さんロングインタビュー
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by imao001 | 2008-12-21 20:29 | レビュー

映評:東京兄妹

CM監督として不動の地位を築いていたことは言うまでもなく、「BU・SU」で監督デビューして以降もその独特の作風でCM同様、映画の評価も高かった市川準。しかしその市川監督の独特の作風が注目され始めたのは中期の東京を強く意識し描写し始めた頃の作品だったのではないかなと思う。このあたりの作品は「小津安二郎監督へのオマージュ」とか「小津安二郎監督への傾倒」などと言う人もいる。確かに小津映画に対する慕情、憧れのようなものがみられるものの市川監督はそういった具体的な映像表現ではオマージュを捧げるつもりはなかっただろう。映像のスタイルにも作品によってはスタティックなカメラ、ズームしない、パンしないなど映像上の共通点も多かったが、市川監督は小津監督のように禁欲的なまでに映像美学を優先したわけではなく、演出意図として最適なカメラ位置、動き、画角というものを考え、その上で俳優陣が最大限の豊かな演技をしてくれることを望んだのが市川監督のスタイルではないかと思う。実際、作風も作品によって変わることも多かったし、いわゆるジャンル映画的なものにも意欲的に取り組んでいった。そういった意味でやはり小津監督を敬愛していたとしても、映像表現で小津監督にオマージュを捧げるといった直接的な表現は行わなかったのではないかと思う。

そこでこの「東京兄妹」である。

この映画、小津安二郎監督へのオマージュというような言われ方もされはするが、乱暴にいうならば冷奴へのオマージュである。もっとはっきり言うならば思春期の少女から大人へと脱皮してゆくその危うい年頃の女性への賛歌である。このあたりはなぜゆえそう断言するのかは実際に見ていただくしかないのだが、じっくり本編を見終わると冷奴と思春期の女性の相関関係がなるほどと分かっていただけると思う。さて、この年代の女性を撮らせたら、市川準 > 大林宣彦 > 今関あきよし の順で(個人の勝手な位置付けです)微妙な美しさを映画で表現している人だと思うし、ともすれば“ロリコン”とザクッと直接的に言われてしまうものだけれども、ある意味“美しいものは美しい”と、とにかくこの世代の美しさを映画で昇華できる日本映画界でも稀有な存在だと思う。

キャスティングは主人公に緒形直人、その妹に粟田麗という絶妙なふたり。

舞台は都電が走る昔ながらの街、そこに暮らす両親を亡くした二人の兄妹の物語。兄の健一は亡き父の代わりにと時には関白なまでに毅然と妹の面倒を見、一家を支える。しかしまた一方で妹の変化に傷つきもする繊細な男だ。妹の洋子も兄に父の面影を見ていると同時に家事の一切を取り仕切るなど兄の妻のようなスタンスでお互いがお互いを支えながら生活をしていた。健一は古本屋に勤め、洋子は高校卒業し、駅前の写真店でアルバイトをしている。商店街では客や店主同士が名前で呼び合い、時には醤油の貸し借りをするような昔ながらの付き合いの残る街でひっそりと暮らすふたりの絆に変化が訪れたのは、健一がつれてきた友人 真によってだった…

個々の日常風景がさりげなく切り取られふたりのエピソードが常にリアルに感じられる。私個人も非常に影響を受けた、ドキュメンタリー的な市井の人々の姿がこの作品でも巧みにインサートされそのリアリティと共にぐいぐい市川監督の世界観に引き込まれる。また映画全体の質感とも深く関わる冷奴の登場。やや近親相姦的な匂いを漂わせながらも全ては市川準独特のタッチで語られていく。この「東京兄妹」に於いてはもう完全に確立された市川準演出。フィクションとノンフィクションの今風に言えばマリアージュとでも言えるだろうか。


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by imao001 | 2008-11-15 13:20 | レビュー

映評:東京夜曲

今回は「東京夜曲」のご紹介。

舞台は東京の片隅にある上宿商店街。浮浪人のごとき主人公 浜中が地元の上宿商店街に戻って来たことから、穏やかに暮らしていた人々の感情にさざ波の様な変化が起こっていった…という物語。

お話としては淡々とした日常の中に登場人物それぞれの感情が絡み合い、しかしそれを日本人的な内へと感情を押し込め、それぞれがそれぞれの思いを自分なりに整理していくさまを淡々と描いている。ざっくりと言い表してしまうとそういうことなのだが、感心するのは、よくもまあこれほどまでの芸達者な俳優陣を見事に自分の映像世界へと押し込めることができるなぁということ。

市川演出の中には「ふとした仕草のなかにある意味深さ」みたいなものがいつも隠し味のようにこめられている。しかしそれはこれまで比較的若い思春期を迎えた女の子、もしくは成人間もない女性などの設定の登場人物に多用され、今回のようなベテラン俳優を起用するにはちょっと難しいと思っていたのだがいやはや感心するばかり。

今回の長塚京三、桃井かおり、倍賞美津子など、おそらくは本人たちの演技の型のようなものが出来上がっている俳優陣には、演出、俳優の魅力の引き出し方、コントロール術などは一筋縄ではいかない。普通の演出家ならばおそらくいままで積み上げてきた自信を喪失するだけの作品になってしまうこともあるであろう。ところがミリ単位の繊細な心理描写を、お年頃の男女のようにあっさり演出できてしまうところに市川監督の演出の力が感じられる。俳優自身の力量も実際そうなのだが、各人その演技の艶やかさを十二分に引き出されている。もし未見の方はリアルな熟年の恋愛を垣間見られるという意味でも是非お勧めする。

当初はサントリーのCMだったものを期待に答え市川監督が長編につむぎ上げた作品。

第21回 モントリオール映画祭で最優秀監督賞を受賞しています。
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by imao001 | 2008-11-15 00:14 | レビュー

映評:トニー滝谷

市川監督のレトロスペクティブ的なものが行われないものかと期待していたところ、池袋の新文芸坐で市川準監督の追悼オールナイトを上映していたので見に行ってきた。ラインナップの中にはあまり劇場にかかる事のない中期の番組も組み込まれていたので今回から4回連続でその映評を書いていきたいと思います。

ということでまず1本目はかなり野心的な2005年の作品 「トニー滝谷」 です。


幼い頃に母を亡くしたトニー滝谷。トロンボーン奏者の破天荒な父に育てられたトニーだったが本人はことさら孤独を感じることはなく、孤独と共生するかのように成長していった。成人したトニーはイラストレーターとしての職を得、個性とは無縁だが独特の正確緻密なタッチでイラストレーターとしての仕事を黙々とこなしていった。いつしかトニーは独立を果たしイラストレーターとしての自分の地位を築き、細々と、そして静かに暮らしていた。

そんなトニーのもとへ出版社の新人編集部員がやってくることから物語は大きく動き出す。これまで孤独を感じることもなく静かに過ごしてきたトニーの人生が一人の女性によって彩りを伴って動き始めた。
トニーはその編集部員 英子を強く意識するようになり、ほどなく二人は結婚する。
トニーにとって味わったことのない暖かな生活、幸せな時間。
しかしそんなトニーにはひとつだけ気になることがあった。
それは妻があまりにも多くの服を買いすぎることだった…


原作は村上春樹の同名の短編小説。「ノルウェイの森」が映画化されるというニュースが先日大きな話題となったが、村上春樹作品自体は余り映画化されることはない。ところがこの「トニー滝谷」は村上氏自身が快く映画化を承諾したとの報道があるので、村上氏自身も市川監督作品を見ていて評価していたのではないだろうか。また「ノルウェイの森」が市川監督と同じく静寂な映像、映像の質感を表現するのに巧みなヴェトナム系監督のトラン・アン・ユンに映画化されるのもただの偶然ではない様に思われる。いずれにせよ原作の作家からしても市川準監督の手による映像化、映画化というのは適任と映ったのだろう。

作品は孤独でありつづけたトニー滝谷の姿が市川監督特有の編集リズム、会話の心地よさによってゆったりと静かに描かれてゆく。この映画はかなり計算されたカット、台詞回し、展開で構成されていて西島秀俊の抑えた語りの間に登場人物たちは自身の状況や感情を台詞回しで描写していく不思議なスタイルをとっている(もしイメージが掴めなければ こちら をどうぞ)。
これまでの市川監督特有の映像詩的な実景・景観インサートを押さえ込みながら、同じ質感を持って市川節を表現する様は、まさに市川監督の職人技であり作家性といえる。
おそらくはじめはこの不思議な演出に戸惑いをすることもあるだろうが、気が付けばどっぷりつかっているまさに市川マジックである。

トニー滝谷の孤独、そして結婚を境に人生がふんわりとを豊かなものへと変わっていく過程を、変わらぬ天才的演技で表現してみせるイッセー尾形。
そして宮沢りえが素朴でいながら魅力的な何かをつねに身にまとっている小沼英子、そしてアルバイト女性の二役を、宮沢りえ独特の魅力でもって滲み出すように演じる。
(しかしこの映画の宮沢りえ美しさといったらスクリーンで見ているとのぼせそうなくらいである)
ふたりの暖かいまなざしや情感、そして孤独といった演技は市川監督の演出を後押しするかのように映画「トニー滝谷」の世界観を作り出している。

第57回 ロカルノ国際映画祭にて審査員特別賞などを受賞。

映画公式ページは こちら

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by imao001 | 2008-11-09 19:50 | レビュー
とにかくデジタルリマスター版ということがありがたく、それだけでも見に行く価値あり。
おそらく1億とまでは行かないまでも、5000万程度は楽にかかるであろうリマスター作業の成果が体験できる。私は東京国際映画祭、渋谷のオーチャ-ドホールでの上映を見たため、残念ながら最高の環境とは言い難いもののその鮮やかな映像と音声の修復加減は充分に体感できた。日本人として見ておくべき映画ではあると思う。

ちなみに“デジタルリマスター”とは元々の映画のネガを使って埃、カビ、プリント時のミスなどで出来た傷や損失を可能な限り復元していくことである。今回は音声にもかなりの修正が加えられているらしく、舞台挨拶では当時「羅生門」のスクリプターを担当されて、今年の東京フィルメックス審査委員長を務める野上照代さんが壇上に立ち「台詞が聞こえづらいといわれる黒澤映画だけれども、驚くほどはっきり聞こえるようになっている」とおっしゃっていた。実際その映像のクリアー度合いはまさに撮りたて状態である。いやはや1本の映画制作費ほどの金額をかけただけはある。是非その目で確かめてください。

「羅生門」の大まかなストーリーは、平安時代の高名な盗賊、多襄丸(たじょうまる)があるとき侍夫婦と出会い、多襄丸がその妻に手を出したところから始まる。夫は後ほど死体で見つかるのだが、この殺人事件の聞き取りが検非違使庁で行われるのだが、言い分が証言者によってまったく食い違い、結局なにが真実なのかわからないでいる…

もう今更言うまでもないが日本の巨匠であることに異論は挟まないし、この「羅生門」もヴェネチアで金獅子賞を受賞するほど優秀な映画ではある。しかし今回ははじめてみてから15年ほど経っているからか初見ほどの感動はなかった。小難しく考えることも出来る物語だし、以前の自分であれば深読みしていたであろうそれぞれの証言や映像なども、今ではあるがままを受け取る素直な映画の見方になっていた。感動とか衝撃度は薄れていたかもしれないが、それでもやはり色濃く残る黒澤監督のタッチやリアリズムなどは繰り返しになるけれども“日本人だったら黒澤作品見ておかなければ”ぐらいの思いを抱かせた。皆さんもこの文章で少しでも黒澤作品に興味を持ってもらえたらこれ幸い、と思うんだが、ま、映画ってやっぱり個人の好みなのでねぇ。

ちなみに、どうでもいいことではあるのだがクレジットでこの映画の助監督が加藤泰というのが分かり「加藤泰のあの執拗なるアングルや撮影方法はこの辺にも由来があるのか~…」などと、変な感慨があった。



角川映画 「羅生門」 デジタル復元版 サイト
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by imao001 | 2008-10-25 16:08 | レビュー
この映画、ストーリーはというとはっきり言って“ない”
“ない”というか“ストーリーを楽しむべき映画ではない”、といえるかもしれない。

しかしながらあえて物語を語るとすれば、小泉今日子演じる漫画家 麻子さんと、彼女と歩みを共にする上野樹里演じるアシスタントのナオミ、そしてその家にやってきた自由奔放な猫 グーグーとのまったりした日々、とでもいえようか…

映画は吉祥寺を舞台に、のんびりと、ゆったりと、そして温かい登場人物たちでファンタジーのように日々の出来事が積み重ねられる。吉祥寺という誰もが懐かしく、親しみをもつ空間に、投げ出されたかのように自然と過ごす猫、そして人々ののんびり、ゆったりした姿が心地いい。

タイトルは『グーグーだって猫である』と、グーグー目線のように書かれているものの、グーグーだろうが、麻子さんだろうが、ナオミだろうが誰だろうが、一人一人がじんわり生ている… そして当然のように今日も地球は回っているし、そんな当たり前のことがまた大事なのかなぁ、などと漠然と感じる… というこの文章のように何を言いたいのかは分からないけれどもその空気感はそれはそれで心地いい… という感覚だけを楽しむ映画ではないかと思います。

ちょっとまどろっこしい文章ですが、この映画、実際こういう感じで良くも悪くも“ま~ったり”しています。

映画公式ページは こちら


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猫好きは良いかと思いますが…

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可愛いとは思うんですが…
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by imao001 | 2008-10-21 21:22 | レビュー
名匠パトリス・ルコント監督が描く心温まる男の友情。といっても、過去に「タンデム」で描いたようなストレートな友情物語ではない。「タンデム」でロードムービーの様にシチュエーションで作品の雰囲気を演出するように、今回の「ぼくの大切なともだち」でも『友達とは?』という問いの答えを見出すべく、作品全体にウィットに、ペーソスに富んだ感情豊かな作品の雰囲気が漂う。深刻でいながらどこか間が抜けている、だけれどもそれがまた非常に良い。

パトリス・ルコントの映画はその作品の雰囲気が濃厚にスクリーンに現れ出るので、好みが分かれることもある。商業的にとか、市場ニーズとかに要求されているであろう期待に見事に答え、自分の作家性という足跡を残して高笑いしながら去っていく、まあ、そんな気持ちのいい監督だ。
だからこそまさに私が一目ぼれした作品「髪結いの亭主」とは違って、ストーリー展開でグイグイ見せていったとしても、男の持つ悲しい“何か”に、ルコント独特の雰囲気という味付けをして、観客を満足のうちにストーリーを締めくくることができる。

「ぼくの大切なともだち」は久しぶりにルコント作品らしいルコント作品で、誰もが楽しめるように思う。


映画『ぼくの大切なともだち』公式サイト
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by imao001 | 2008-08-06 22:58 | レビュー