映像制作/USTREAM・IP配信会社のジーマ代表が、徒然なるままに書き綴る とりとめもない出来事、映像、映画業界のお話 http://ji-ma.tv/ http://ji-ma.jp/


by imao001

映評:トニー滝谷

市川監督のレトロスペクティブ的なものが行われないものかと期待していたところ、池袋の新文芸坐で市川準監督の追悼オールナイトを上映していたので見に行ってきた。ラインナップの中にはあまり劇場にかかる事のない中期の番組も組み込まれていたので今回から4回連続でその映評を書いていきたいと思います。

ということでまず1本目はかなり野心的な2005年の作品 「トニー滝谷」 です。


幼い頃に母を亡くしたトニー滝谷。トロンボーン奏者の破天荒な父に育てられたトニーだったが本人はことさら孤独を感じることはなく、孤独と共生するかのように成長していった。成人したトニーはイラストレーターとしての職を得、個性とは無縁だが独特の正確緻密なタッチでイラストレーターとしての仕事を黙々とこなしていった。いつしかトニーは独立を果たしイラストレーターとしての自分の地位を築き、細々と、そして静かに暮らしていた。

そんなトニーのもとへ出版社の新人編集部員がやってくることから物語は大きく動き出す。これまで孤独を感じることもなく静かに過ごしてきたトニーの人生が一人の女性によって彩りを伴って動き始めた。
トニーはその編集部員 英子を強く意識するようになり、ほどなく二人は結婚する。
トニーにとって味わったことのない暖かな生活、幸せな時間。
しかしそんなトニーにはひとつだけ気になることがあった。
それは妻があまりにも多くの服を買いすぎることだった…


原作は村上春樹の同名の短編小説。「ノルウェイの森」が映画化されるというニュースが先日大きな話題となったが、村上春樹作品自体は余り映画化されることはない。ところがこの「トニー滝谷」は村上氏自身が快く映画化を承諾したとの報道があるので、村上氏自身も市川監督作品を見ていて評価していたのではないだろうか。また「ノルウェイの森」が市川監督と同じく静寂な映像、映像の質感を表現するのに巧みなヴェトナム系監督のトラン・アン・ユンに映画化されるのもただの偶然ではない様に思われる。いずれにせよ原作の作家からしても市川準監督の手による映像化、映画化というのは適任と映ったのだろう。

作品は孤独でありつづけたトニー滝谷の姿が市川監督特有の編集リズム、会話の心地よさによってゆったりと静かに描かれてゆく。この映画はかなり計算されたカット、台詞回し、展開で構成されていて西島秀俊の抑えた語りの間に登場人物たちは自身の状況や感情を台詞回しで描写していく不思議なスタイルをとっている(もしイメージが掴めなければ こちら をどうぞ)。
これまでの市川監督特有の映像詩的な実景・景観インサートを押さえ込みながら、同じ質感を持って市川節を表現する様は、まさに市川監督の職人技であり作家性といえる。
おそらくはじめはこの不思議な演出に戸惑いをすることもあるだろうが、気が付けばどっぷりつかっているまさに市川マジックである。

トニー滝谷の孤独、そして結婚を境に人生がふんわりとを豊かなものへと変わっていく過程を、変わらぬ天才的演技で表現してみせるイッセー尾形。
そして宮沢りえが素朴でいながら魅力的な何かをつねに身にまとっている小沼英子、そしてアルバイト女性の二役を、宮沢りえ独特の魅力でもって滲み出すように演じる。
(しかしこの映画の宮沢りえ美しさといったらスクリーンで見ているとのぼせそうなくらいである)
ふたりの暖かいまなざしや情感、そして孤独といった演技は市川監督の演出を後押しするかのように映画「トニー滝谷」の世界観を作り出している。

第57回 ロカルノ国際映画祭にて審査員特別賞などを受賞。

映画公式ページは こちら

c0162328_19501417.jpg

[PR]
by imao001 | 2008-11-09 19:50 | レビュー